「龍ちゃん」の店内を見渡すと、そこここに「龍」にまつわる物が飾られているのに気づくだろう。

 

 置物、絵画、書など、お客さんに頂いたものも含め、長年の間で少しずつ集まってきたという。

 そして、店主のユニフォームともなっている黒Tシャツには、大きな龍のイラストがあしらわれている。

 現在着用しているものは時折、浅草まで出かけてまとめ買いをしているのだそうだ。

 実は店内には、それとは別のデザインのTシャツがハンガーにかけられている。

 実はかつてユニフォームにしていた旧デザインのTシャツのデッドストックなのだという。

 この胸の龍をデザインしたのはなんと、店主・浩介の祖母たる宮田妙子さんという。

 

 妙子は書家であったため、筆の扱いはお手の物。開業当初に浩介が頼みに行くと、おばあちゃん子でもあったかわいい孫の願いを快く引き受けてくれたのだった。

 一方で、妙子はなかなかに厳しい祖母でもあったという。

 口癖といえば、

「上そろり、中ぱたり、下三寸、馬鹿開けっ放し」。

 

 これがなにかといえば、ふすまや戸の締め方についての話である。

そろりと閉めなさい、ぱたりはまぁまぁ、だめなのは三寸空いていること。さらに最悪なのは、開けっ放しなことーーそんな意味なのだそうだ。

 

 書のみならず、茶道や日本舞踊などもたしなんでいたそうで、日本の伝統的な文化や芸能への造詣は深かったのだと思われる。

 当時の日本にあって、家にこもらずそれだけ活動的だったことを考えると、いわゆる「イカす」おばあちゃんだったのにちがいない。

 

 そんなおばあちゃんの影響を受けて育った浩介は、見かけの豪快さとは裏表に実のところ繊細な気遣いの人でもある。

「こう言ったら、こう思うかもしれない」

人知れず、日々あれやこれやとさまざまなことに心を砕いてもいるのだ。

 

・・・などと書くこと自体、本人の本意ではないかもしれないが、これはこれとしてまぁいいですよね。